新イシカワ物理学研究所−ちょっと物理なはなし

入れ歯安定剤の怪


私が中学の頃、物理を習い始めると、まず力の釣り合いを
習いました。
力は矢印で表し、また合力は矢印の合成であらわすことが
出来ることを習い、現象を定量化することの感動を味わいました。

そんな時、テレビのCMで入れ歯安定剤を紹介していました。
そこでは、入れ歯安定剤で机を持ち上げる映像が流れました。
こんなにしっかりしているから入れ歯がぐらつかないというわけです。
その後に、机から簡単にはがせることを説明していました。
力学を習い始めたばかりの私は、ここで変だなと思いました。
机を30kgだとしましょう。
机を持ち上げたとき、下向きには30kgwの力がかかります。
持ち上げて安定しているということは、そのときには上向きにも
30kgwの力がかかっていたことになります。
図で書くとこんな感じです。

それでもはがれないということは、それ以上の力をかけないと
はがれるはずありません。
それなのに何故簡単にはがせるのか?
30kgw以上の力で引っ張ったのだろうか?

これらの考え方がおかしいというのは明白なことです。
入れ歯安定剤は有限の大きさを持っているので、
力がどこにかかっているか考えなければなりません。
机を持ち上げるときには均等に力がかかっているでしょう。
しかし、はがすときには端の、少ない面積の部分の力を加え、
少しずつはがしていきます。
このとき、もちろん30kgw以上の力なんて必要ありません。

このように、聞きかじりだけの知識でものを考えるのは
非常に危険です。
特に物理では、多くの場合現象の抽象化を行っています。
力学のはじめに習う力の合成の個所は、
暗黙のうちに対象が質点であることを仮定していました。
このことを知らなかったおかげで、直観的にあたりまえなことが
理解できなくなってしまうこともあるのです。
私たちは物理を勉強しながら、法則がどういう仮定のもとで
成り立っているのか考えなければなりません。
物理に関する中途半端な知識を盲信して
視野が狭くなることのないよう、常に注意していきたいですね。




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