新イシカワ物理数学−デルタ関数


 デルタ関数は、ディラックが量子力学の定式化のために導入した関数であり、 量子力学を始め物理のいろいろな分野で使われている。  イメージとしては、クロネッカーのデルタの連続パラメータ版であると言える。  ただし、数学的には厳密には関数と呼ふことが出来ないそうである。  数学的に厳密に扱うには、超関数を導入する必要がある。  シュワルツの超関数を使ったデルタ関数の定式化が 「参考文献と本の紹介」で紹介した 「工学部で学ぶ数学」に載っているので、 興味のある場合は参照していただきたい。 

 デルタ関数δ(x)はx=0以外ではゼロとなり、さらに 次の性質を満たしている。
   … (1)

積分範囲は−∞から∞までとなっているが、 x=0以外ではδ(x)=0となるので、この積分は x=0を含む任意の範囲で1となる。  ある一点以外での値がゼロで、積分が有限になるためには、 その一点での値は無限大に発散しなければならない。  よって、デルタ関数は
   … (2)

と表現される。 ただし、∞は値ではないので、 これはあくまでイメージであると考えた方がよいだろう。 

 デルタ関数は、以下のような性質も持っている。
   … (3)

ただし、f(x)は任意の関数である。  (3)式は(1)式や(2)式から導くことはできない。  そのため、数学的に厳密に考えない場合には、通常(3)式をデルタ関数の 定義と考える。 (3)式でf(x)=1とすれば、(1)式を導くことができる。  (3)式をもう少し一般的に書くと、
   … (4)

と書ける。 (3)の場合でも(4)の場合でも、この積分は δの引数がゼロとなる点の値におけるfの値をとることになる。 

 このようにデルタ関数は、どのような値を取るかで定義することはできず、 積分を使って定義される。  すなわち、デルタ関数はそれ自体で意味を持たず、積分記号の中に 入れて初めて扱うことができる関数であると考えられる。 


 デルタ関数を他の関数を使って表現する方法を2つ紹介する。  まず1つは、ガウス型の関数を使った方法である。  ガウス型関数とは、e−axという 形をした関数で、正規分布を表す関数として統計学などでよく出てくる。  ガウス型関数を積分すると、以下のような値をとるということが知られている。  
         
   … (5)

これは重積分を使って簡単に証明することができるが、 デルタ関数に関する議論自体には 大きく関わらないので、証明なしで話を進めることにする。  (5)式によると、左辺の積分を右辺の値で割ったものはaの値によらず常に 1となることになる。  そこで、左辺を右辺で割った関数について、aが大きい 極限を考える。  ガウス型関数は原点でピークを持つ左右対称の関数で、 aの値が大きくなるほどピーク幅が狭くなる。  また、(5)式の右辺はaが大きくなるほど小さくなるので、 左辺の被積分関数を右辺で割った関数はaが大きくなるにしたがって 以下のように変化する。 

   … (a)

幅はaが大きい程小さく、ピークの高さはaが大きい程大きくなる。  aが無限大に発散する極限では、x=0以外において ゼロとなり、x=0では無限大になる。 よって、 (2)式が満たされ、極限がデルタ関数になることがわかる。  (a)は積分の値、つまり面積が1になるように極限操作が行われており、 (1)式も満たされている。  以上のことから、 
   … (6)

となる。 この式から、デルタ関数は偶関数であると 言うことができる。 

 デルタ関数を他の関数で表す2つ目の例は、ヘヴィサイド関数を 用いたものである。  ヘヴィサイド関数θ(x)は
   … (7)

という値を持ち、単位階段関数とも呼ばれている。  図示すると以下のようになる。 
   … (b)

ヘヴィサイド関数を用いると、デルタ関数は
   … (8)

と表現することができる。 まず、x=0以外ではθ(x)は傾きを 持たないため、その微分はゼロになる。  x=0では値が不連続になっており、その傾きは無限大であると 言うことができる。  そのため、(2)式が満たされることになる。 また、 (8)式を使うと(1)式が満たされることも以下のように確認できる。 
   … (9)



 最後に、デルタ関数が物理で使われる例を一つ紹介する。  そのために、まず3次元のデルタ関数を導入する。  3次元のデルタ関数δ()は、位置座標が ゼロベクトル、すなわち原点であるときにのみゼロにならない 関数である。  δ()は、3次元であることを強調するために δ(3))と書かれることもある。  3次元のデルタ関数は、以下のようにデルタ関数の積で 表すことができる。 
   … (10)

物理では次元が重要になる場合が多いので、デルタ関数の 次元について考えておく。  通常の(1次元の)デルタ関数は、xで積分すると1(無次元)になるため、 xの逆数の次元を持っていると考えられる。  例えばxが長さの次元を持っていれば、デルタ関数は[長さ]−1の 次元を持つ。 3次元デルタ関数の場合、x、y、zは長さの次元を 持っているので、次元は[長さ]−3=[体積]−1の 次元を持つことになる。 

 3次元のデルタ関数を使うと、点電荷の電荷密度を表現することができる。  点電荷が’にある場合、 電荷密度はρ=Qδ(’)と書くことができる。  ただし、Qは点電荷の持つ電気量で、定数である。  次元は両辺ともに[電荷]/[体積]となっていることが確認できる。  ガウス面を電荷を囲むようにとると、ガウスの法則は以下のようになる。 
   … (11)


 点電荷は、電気量が連続的に分布しているのではなく、 ある一点のみで電気量を持っている。  これはちょうど(2)式と同じようになっている。  このように、連続的に分布せずに一点に集中しているものの密度分布 (点電荷の電荷密度の他には質点の密度など)は デルタ関数を使って表現できる。  ただし、物理においても、デルタ関数は積分記号の中でしか 意味を持たないことに注意しなければならない。 


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