新イシカワ量子力学−座標表示と波動関数


 前節までは有限個の状態をとるような場合を考えたが、 実際に粒子の運動などを記述する場合には状態を 無限個考える必要がある。  その際に最もよく使われるのが座標表示という方法である。  ここでは座標表示を導入し、もうひとつの方法である 運動量表示についても少し触れる。 


 前節では2状態系を扱った。 2状態系において状態は 2つの成分を持つ複素ベクトルで表すことができるのであった。  ベクトルのそれぞれの成分は確率振幅を表し、確率振幅の自乗は 確率を表す。  2状態系の状態ベクトル|ψ>は、基本状態|1>、|2>を用いると 以下のように表すことができる。 
   … (1)

<1|ψ>と<2|ψ>は確率振幅であり、スカラー量である。  この式で|1><1|の部分を取り出してみると、これは状態|ψ>に作用して |1><1|ψ>という新しい状態を作るので、 演算子であると考えることができる。  この場合は|ψ>の第1成分のみを取り出す演算子ということになる。  このように、状態ベクトルからある成分のみを取り出す演算子のことを 射影演算子と呼ぶ。 

 2状態系の状態ベクトルは2つの成分に分解することができ、 それぞれの自乗は確率を表す。  このことを図を使って表してみると、例えば以下のように書ける。 

   … (a)

棒グラフは確率を表している。 2状態系は必ず2つの状態のうちの どちから片方をとるので、確率の合計は1になるはずである。  この図では、棒グラフの太さを1、高さを確率と考えれば 面積が1になることが全体の確率が1になることに対応する。 

 もっと状態数が多い場合、例えば状態数が5つの場合は以下のようになる。
   … (b)

この場合も全体の確率が1であるという条件はグラフ全体の面積が 1であるということに対応する。 

 前節でも触れた通り、実際にある系を量子力学で 扱おうとするとき、状態は無限に存在する。  状態の数を2つに限って考えるのは一種の近似である。  ここからは、1次元を運動する粒子について扱う。  この場合には粒子の状態が無限になってしまい、 上の図のように状態数を増やしていっても粒子の運動を表現できない。

 1次元を運動する粒子について、基本状態をどのように取ればよいか 考えてみよう。 粒子はx軸上を運動するものとする。  まず、基本状態は粒子の位置で取るということが考えられる。  すなわち、x=1である状態、x=1.1である状態…という風に無限個の 基本状態を取るのである。  このような、粒子が位置xにいる状態は|x>と表す。  この基本状態を使うと、ある状態|ψ>の粒子が位置xにいる確率振幅は <x|ψ>と書くことができる。  確率振幅<x|ψ>はxによって値が決まるので、xの関数であると 考えることができる。 そこで、この確率振幅を
   … (2)

と表すことにする。 ψ(x)はxの関数で、波動関数と呼ばれる。  波動関数とは、粒子がある場所xにある確率振幅を表す関数ということになる。  このように粒子の座標を基本状態に取り、波動関数で状態を 表すことを「座標表示」と言う。 

 有限状態系の場合、確率振幅の自乗が確率になった。  したがって波動関数の自乗は確率に関係がある。  しかし、波動関数の自乗が直接確率を表すと考えると問題がある。  粒子のとりうる位置は無限にあるので、例えば厳密にx=1に 粒子がある確率はゼロに収束してしまう。  そこで、波動関数の自乗は確率ではなく確率密度になると 考えることにする。 例えば、x=aからx=a+dx (dxは微小な長さ)の間に粒子が 存在する確率は
   … (3)

となる。 図で表すと以下のように描ける。 
   … (c)

赤い部分が(3)式の表す確率の部分である。  粒子がある範囲にある確率は、その部分の面積で表すことができる。  この図を図(a)や(b)と比較してみると、 どちらの場合もグラフの面積が確率に対応することがわかる。  図(c)の状態で粒子がx=aからx=bの間にある確率は、 (3)式のような微小な確率をaからbまでたしあわせればよい。  よって、
   … (4)

となる。  粒子はx軸上のどこかにいるはずなので、全体の確率は1になる必要がある。  よって、
   … (5)

という関係を満たす必要がある。 これは座標表示における規格化条件である。 

 座標表示における状態ベクトル同士の内積について考えてみよう。  2状態系の場合は、状態|ψ>と|φ>の内積は以下のように 書くことができる。 
   … (6)

 射影演算子により|ψ>と|φ>の成分を取り出してかけあわせ、それらを 加えている。 2行目はシグマ記号を使って形式的にまとめてある。  2つ以上の基本状態をもつ系では、この式の2行目の和を基本状態の数だけ 取ることによって内積を求めることができる。 

 ここで1つ内積について注意しておくべき重要な関係がある。  内積はブラとケットを演算して得られるが、あるケットをブラにするときには 成分を複素共役にするのであった。  このため、内積<φ|ψ>と<ψ|φ>は複素共役の関係にあることになる。  複素共役を取ることを*で表すと、以下のような関係がある。 
   … (7)


 それでは座標表示の内積を求めてみよう。  座標表示では状態は無限にあるので、(6)式の和を無限個とる 必要がある。 この操作は積分で置き換えることができる。  <x|φ>=φ(x)とすると、内積<φ|ψ>は以下のようになる。 
   … (8)

1行目に対し(7)式を使い、2行目の形を導いた。  このように、座標表示においては内積は積分で表すことができる。 

 次に、座標表示での物理量の期待値の表しかたを考えておこう。  状態が|ψ>であるとき、ある物理量の期待値は、その物理量に対応する 演算子をAとして<ψ|A|ψ>となるのであった。  これを座標表示で考えると、今までと同じように以下のように 積分の形になる。 
   … (9)

ただし、この式の右辺と左辺におけるAは同じものではない。  左辺のAは状態ベクトルに作用して新しいベクトルを生成する演算子である。  それに対し右辺のAはxの関数である波動関数に作用する演算子である。  左辺のAは行列で表現できるが、右辺はxに関する式になる。  このように意味は違うのであるが、習慣的に同じ記号が使われるので ここでもそれに倣った。 

 有限状態系では、基本状態は大きさが1で 基本状態同士の内積はゼロになるように選ぶのであった。  これは、
   … (10)

と表すことができる。 δijはクロネッカーのデルタと 呼ばれる記号で、i=jのとき1、i≠jのとき0となる。  つまり(10)式は、例えば<1|2>=0、<1|1>=1ということを 表している。 

 座標表示で表した有限状態系についても、基本状態同士の 関係を考えてみよう。 2つの基本状態|x>、|x'>の内積<x’|x> について考える。  まず、x≠x’のとき<x’|x>=0になると考えられる。  なぜなら、<x’|x>は状態|x>が状態|x’>である確率振幅を 表すからである。 ある状態で位置がxであるとき、位置がx’である確率は x≠x’のときゼロである。 

 <x’|x>について考えるために、ある状態|ψ>に対する内積 <x’|ψ>を2通りに表してみよう。  すると、以下のように表すことができる。 
   … (11)

左辺は波動関数の定義(2)式、右辺は内積の性質(8)式を使って 表した。 ここで、ψ(x)については何も制限がなく、 どのような関数についても成り立たなければならない。  そこで、ψ(x)=1を取って考えてみることにする。  すると、
   … (12)

となる。  <x’|x>はx’≠xの全ての範囲でゼロになるにもかかわらず、 積分すると1になるのである。  このためには、x=x’で無限大にならなければならない。  このように、ある点以外でゼロになり、積分すると1になる 関数(超関数)はデルタ関数と呼ばれ、δ(x)と書く (デルタ関数については、物理数学「 デルタ関数」参照)。  δ(x)はx=0で≠0となる。 このため、<x’|x>は
   … (13)

と表すことができる。 


 ここまでで座標を基本状態に取る座標表示を見てきた。  基本状態の取りかたには他にも方法があり、その1つに 運動量を基本状態に取る「運動量表示」がある。  運動量表示を知っていると不確定性原理が理解しやすくなるなどの 利点があるので、ここで簡単に扱うことにする。 

 座標表示では、ある位置に粒子がいる状態|x>を基本状態に取った。  それに対し、運動量表示では粒子がある運動量を持つ状態|p>を 基本状態に取る。  運動量表示でも座標表示と同じ関係が成り立つ。  すなわち、以下のような関係である。
   … (14)

1行目は運動量表示における波動関数である。  座標表示の波動関数と違う関数になることを強調するために チルダを付けた。 2行目は、運動量表示でも 波動関数の自乗を積分すると確率になることを表している。  3行目は基本状態同士の関係である。 

 座標表示と運動量表示の関係について考えてみよう。  これらの関係を考えるためには、基本状態同士の内積 <x|p>を考える必要がある。  これは、運動量がpである粒子の、位置がxである確率振幅である。  確率振幅は波動を表す式であり、波数がkである波は eikxと表すことができる。  量子力学では運動量と波数はド・ブロイの関係式p=ħkを 満たすので、内積<x|p>は以下のようになると 考えることができる。 
   … (15)

Aはある定数である。 

 内積<p|ψ>を2通りに表すことにより、 運動量表示と座標表示の関係を求める。  <p|ψ>は以下のように書くことができる。 
   … (16)

左辺は運動量表示の波動関数の定義、右辺は(8)式を使った 内積の表現である。  2行目を見ると、フーリエ変換の形になっている (フーリエ変換も物理数学で扱う予定)。  つまり、座標表示の波動関数をフーリエ変換すると 運動量表示の波動関数になることがわかる。 

 <x|ψ>を同じように2通りに表すと以下のようになる。 
   … (17)

やはりフーリエ変換(フーリエ逆変換)の形になっている。  運動量表示の波動関数はフーリエ変換により座標表示の波動関数になる。  定数Aは、座標表示を運動量表示に変換し、さらにフーリエ変換すると 元に戻ることから決めることができる。 


 1次元を運動する粒子は無限個の状態をとりうるが、 座標表示によって波動関数という形でその状態を記述できることがわかった。  次節ではシュレディンガー方程式を座標表示で書き直して、 1次元を運動する粒子を実際に扱うための準備をする。 


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