新イシカワ量子力学− 正準量子化とシュレディンガー方程式


 前節では座標表示を導入し、1次元を運動する粒子を扱う 準備をした。  ここではシュレディンガー方程式を座標表示で表し、 1次元上の粒子がどのような方程式に従うかを調べる。


 粒子が運動する場合、状態の時間変化を考える必要がある。  このとき、状態はシュレディンガー方程式
   … (1)

に従って時間変化するのであった。  前節で導入した座標表示の考え方に従った場合、 この式がどのように表されるか考えてみよう。 

 まず、状態が時間変化する場合の波動関数を導入する。  前節では状態の時間変化は考えなかったが、 時間変化する状態|Ψ(t)>も同じように座標表示 することができる。 
   … (2)

右辺は、状態が時間変化する場合の波動関数である。  前節の場合と異なり、波動関数は場所と時間の関数になっている。 

 このような波動関数を使ってシュレディンガー方程式(1)を 表すと、以下のようになる。 
   … (3)

(1)式と(3)式はほとんど変わらないように見えるが、 右辺のハミルトニアンが違うものであることに注意しなければならない。  (1)のハミルトニアンは状態ベクトルに作用して 新しい状態ベクトルを作る演算子であり、(3)のハミルトニアンは xの関数であるΨに作用する演算子である。  前節で述べた通り、これらは同じものではない。 

 1次元を運動する粒子の波動関数は(3)式に従って変化するが、 ハミルトニアンHが具体的にどのような演算子であるかが わからないと実際に計算することはできない。  そこで、Hがどのような演算子であるか推測する。  前節でも触れたが、量子力学は独立した理論であり、 他のものから導くことはできない。  Hがどんな形を取るかということも他の何かから 導くことは不可能である。  ここで行うのもあくまで推測である。 

 ハミルトニアンはエネルギーを表す演算子である。  解析力学によると、古典力学におけるハミルトニアンは 位置xと運動量pの関数として以下のように書ける。 
   … (4)

mは粒子の質量、Vはポテンシャルである。  量子力学では運動に関する物理量は演算子で表されるので、 H、x、pに^を付けて演算子として見ると
   … (5)

と書ける。 ただし、ここでの演算子は全て xの関数に作用する演算子(座標表示をしたもの)である。  この関係から、位置演算子xと運動量演算子pの具体的な形が わかればハミルトニアンHがわかることになる。 

 まず位置演算子xについて考える。  座標表示では位置xを独立変数と考えているので、
   … (6)

と考えてよい。 つまり、位置演算子はxを掛けるという 演算になる。 

 一方、運動量演算子はそのままではいけない。  今は座標表示を考えているので、運動量演算子も 位置xに関する何らかの演算として表す必要がある。  運動量演算子がどのような形であるかを考えるために、 運動量がpであるような状態を考える。  このとき、波動関数は
   … (7)

となると考えられる。 ここでド・ブロイの関係式p=ħk を使った。 Aは任意定数である。  これは前節で扱った<x|p>に相当するものである。 

 この波動関数に作用し、結果がpとなるものが 運動量演算子に相当すると考えることができる。  そのようなものとして、微分演算が考えられる。  (7)式をxで微分すると、
   … (8)

となる。 ここから、運動量に対応する演算は
   … (9)

という風になると考えられる。  これが運動量演算子の座標表示である。 

 位置および運動量演算子の座標表示(6)、(9)を使い、 (5)式からハミルトニアンを具体的に書き表し、 (3)に代入すると、以下のような座標表示のシュレディンガー方程式が 導かれる。 
   … (10)

はpの演算を2回行うので、 微分を2回することになる。  これが1次元を運動する粒子を記述する基本方程式である。  このように、位置演算子と運動量演算子の形を 推測し、量子力学的な運動方程式を推測することを 正準量子化と呼ぶ。 正準量子化は通常、 正準交換関係と呼ばれる関係を使って行われるが、 正準交換関係については交換関係を導入した後で 改めて扱う予定である。 

 あるポテンシャル中の粒子がどのような運動をするか 考える場合、(10)式にポテンシャルを代入して解くと 波動関数Ψを求めることができる。  波動関数の大きさの自乗は確率密度を表すので、 粒子がどのような運動をするかも知ることができる。  波動関数がわかっている状態での物理量の (ある時刻における)期待値は
   … (11)

と表すことができると前節で扱った。  ここから位置と運動量の期待値を表してみると、
   … (12)

   … (13)

となる。 Ψがx、tの関数としてわかっていれば、この積分を 実際に実行することにより期待値を求めることができる。 


 以上より、シュレディンガー方程式(10)を解くことにより 粒子の運動を知ることができることがわかった。  しかし、(10)式はx、tを変数とする偏微分方程式で、 一般に解くのは難しい。 そこで、Ψがxの関数とtの関数の 積になっていると考えてみよう。  すなわち、以下のようにおく。 
   … (14)

偏微分方程式のこのような解法を変数分離法と言う。  ただし、Ψが常に(14)式のように書けるとは限らない。  ここでは、(14)のように書ける特殊な解に ついて考えるのである。 

 (14)式をシュレディンガー方程式(10)に代入すると 以下のようになる。 
   … (15)

fはtのみ、ψはxのみの関数なので、 偏微分を全微分に直した。 1行目をψfで割ると2行目が得られる。  2行目の左辺はtのみ、右辺はxのみの関数になっている。  xおよびtの値によらずにこの式が成り立つためには、 両辺の値がx、tによらない定数でなければならない。  その定数をEとおくことにする。 

 まず、(15)式2行目の右辺がEに等しいことから、 以下の関係が導かれる。 
   … (16)

2行目や3行目は、時間に依存しない シュレディンガー方程式と呼ばれる。  これはH|ψ>=E|ψ>に対応するため、 この状態はエネルギー固有状態であり、Eは エネルギー固有値であることがわかる。 

 次に、(15)式2行目の右辺はEに等しいので、 次の方程式が成り立つ。 
   … (17)

これは変数分離型常微分方程式なので、解は簡単に 求めることができる(微分方程式の解法は物理数学のページに書く予定)。  この場合の解は
   … (18)

となる。 Aは任意定数である。  (17)に代入すれば成り立つことが簡単に確かめられる。  これを使ってΨを表すと以下のようになる。 
   … (19)

ただし、任意定数Aはψに含めた。  ψは時間に依存しないシュレディンガー方程式(16)および 規格化条件から決めることができる。 

 (19)式で表されるような状態は、(xによらない定数)× ψ(x)という形になっており、HΨ=EΨを満たす。  よって、Ψが変数分離できる場合、Ψはエネルギー固有状態 なっているのである。  また、確率密度|Ψ|
   … (20)

となり、時間変化しない。  このように、変数分離できる場合のΨは時間が経っても 量子力学的に同じ状態なので、定常状態と呼ばれる。 

 シュレディンガー方程式(10)の解は一般に(19)の ような形をしているとは限らない。  例えば、(19)のような式で表される複数の(Eが異なる)解を 足したものも(10)式を満たすので、 やはり解になる(重ね合わせの原理)。  このような解は変数分離することができない。  シュレディンガー方程式の線型性により、 定常状態の線形結合は全て解になる (線型の概念も物理数学で紹介予定)。  一般に、粒子の状態は定常状態の波動関数の重ね合わせで 表すことができる。 

 定常状態を重ね合わせた後の状態は HΨ=EΨを満たさなくなり、エネルギー固有状態では なくなる。  そのような状態は定常状態ではないので、 確率密度|Ψ|は時間により変化する。 

 あるポテンシャルが与えられているときの 粒子の運動を量子力学的に解く場合、まず 時間に依存しないシュレディンガー方程式を解き、 どのような定常状態が存在しうるかを調べる。  その後、初期条件を満たすような解を、定常状態を 重ね合わせることによって作る。  そうすることによって、考えている粒子の波動関数を 決定することができる。  波動関数がわかれば、いろいろな物理量の期待値を 求めることにより運動の様子を知ることができる。 


 演算子で表されるいろいろな物理量について、座標表示において どのように表されるかを調べた。  ここでそれらをまとめてみると以下のようになる。
物理量
演算子

このような、物理量と演算子の対応関係を対応原理と呼ぶ。  エネルギーEに対応する演算子は、アインシュタインの関係式E=ħωと、 振動数ωを持つ波の式e−iωtから、 運動量演算子の場合と同じように求めることができる。 
 前節およびこの節で、1次元を運動する粒子の扱いかたを 見てきた。  次節からは、実際のポテンシャルの中で粒子がどのように ふるまうかをいくつかの例を挙げて説明する。  次節で扱うのは最も簡単な場合で、 無限に高い井戸型ポテンシャルを扱う。  


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